選挙前から急浮上した、大企業減税が問題。選挙戦の論争でも、大きな焦点となってきました。
本誌では、大企業優遇税制について、これまでも様々、企画出て取り上げてきました。直近では、
〔2007年4月号〕特集●徹底分析 大企業優遇税制
〔2009年3月号〕垣内亮「大企業・大資産家優遇税制の転換を」(特集・内需型経済へ 経済危機打開の方途)
また、2010年2月号の【討論】「巨額の政府債務をどうみるか」(出席=岩波一寛、安藤実、垣内亮)では、財務省などの累積債務を口実にした増税論に対し、「財政赤字の原因はどこにあるか」「民主党政権の財政政策の問題点」などについて、議論をしています。
このうち、09年3月号の垣内論文の後半の本文を紹介したいと思います。
菅首相は、「失われた20年」を問題にしていますが、ここでの試算では、九八年以降の一〇年間の大企業減税は、年間五兆円規模になっています。
こうした大企業応援策が、経済を強くしたとは、とても言えないことは、過去の事態ですでに明らかではないでしょうか。
(以下、垣内亮論文より。本誌〇九年三月号、33〜39ページ)
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【四】 法人税率の引下げはいかに進んだか
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次に、法人所得課税について検討しよう。八〇年代には、法人税の基本税率は最高時には四三・三%だったが、九九年には三〇%にまで引下げられた。地方税である法人事業税の税率も引き下げられ、法人住民税もあわせた法人三税の実効税率も大きく低下してきた(表6)。
この結果、九七年当時の税率と比較しただけでも、資本金一〇億円以上の大企業の法人三税全体での減税額は、年間四兆円近い規模になっている。
財界は、「日本の法人税の実効税率は諸外国に比べて高い」などといって、さらに引下げを要求している。たしかに、実効税率だけをとってみると、日本はアメリカとならんでもっとも高く、ヨーロッパ諸国の方が低くなっている(図9)。しかし、ここには二つの問題がある。
一つは、後述するような大企業優遇税制によって、日本の大企業の税負担率は実効税率よりもかなり低くなっていることである。現在、理論上の日本の「実効税率」は約四〇%だが、大企業各社の〇七年度有価証券報告書によれば、税収控除なども含めた「調整後実効税率」は、トヨタ自動車二八%、NTTドコモ二七・五%、キヤノン三三・二%など、かなり低い数字になっている。
もう一つ、企業の社会的負担を考える場合には、税だけではなく従業員の社会保険料の事業主負担も考える必要がある。(図10)のように、社会保険料負担を含めた比較では、日本の大企業はドイツやフランスに比べてかなり負担が低くなっている。【〇五年度財務諸表より、自動車製造業で、日本30・4%、ドイツ36・9%、フランス41・5%】これをさらに下げろという財界の主張に道理がないことは明らかである。——————————————
【5】 最近の大企業優遇税制の減税額を試算する
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大企業に対しては、表面的な税率よりも実質的な税負担を軽くするような優遇税制が昔も存在していた。たとえば各種の引当金や準備金、特別償却などである。これらは、所得の一部を非課税にしたり、費用を実際より多く計上できるようにしたりすることによって課税ベースを小さくし、税額を減らす方法である。高度成長期をはじめ、重厚長大型産業が中心だった時代には、こうした減税は、企業内の蓄積を促進することによって、大企業に多くの恩恵をもたらした。この減税方法は企業の最終利益を見かけ上小さくするため、株主への配当も抑制されることになる。当時は、企業の資金調達は銀行借入が中心であり、配当が少ないことは大きな問題にはならなかった。
しかし、旧来型の重厚長大型産業から多国籍企業型産業に大企業の主力が移り、株式市場での資金調達が中心になり、株主への配当が重視されるようになると、引当金などによって帳簿上の利益を減らす減税ではなく、巨額の利益を計上しながら税負担を少なくするために、税率そのものの引き下げが大企業の要求となった。この結果、従来からあった引当金などは順次整理されたが、それに代わって、「企業再編」や「多国籍企業化」などの今日的現状に見合った新たな優遇税制が創設されるようになった。二一世紀になってからのものだけでも、次のような減税が行われている。●連結納税制度の導入(二〇〇二年度)
〇二年度から、連結納税制度が導入された。これは一〇〇%出資の子会社について、親会社と損益等を合算して税額を計算する方式である。連結グループの中に赤字企業があれば、その赤字分を他の企業の黒字と相殺できるため、法人税が軽減される(地方税は合算の対象にはならない)。
政府は、この制度は企業再編に対応したもので減税を目的としたものではないとしているが、実際には減税効果がねらいである。連結方式を採用するかどうかは、あらかじめ企業が選択する必要があり、最初から選択した企業は、グループ内に赤字企業を抱えているところが多かった。しだいに連結採用企業が増え、いまではトヨタ自動車も採用している。これによる減税額は年間四〇〇〇億円以上にもなると推計される(表7)。●研究開発減税(二〇〇三年度)
〇二年度までの研究開発減税は、以前に比べて試験研究費が増加した企業について、増加分に応じた税額控除をするもので、対象企業も減税額も少なかった。〇三年度からは、試験研究費の「増加額」ではなく「総額」に応じて減税することになり、これによって減税額が急増した。とくに大企業の減税が増えた(図11)。
減税額の上限は法人税額の二割だったが、〇八年度からは別枠で一割の控除が受けられるようになり、最大で法人税額の三割までの控除が受けられるようになった。この場合には、三〇%の法人税率が実質的には二一%に下がるのと同じことになる。自動車・電機・製薬など、研究費の多い企業に二〇社で三〇〇〇億円という巨額の減税がもたらされている(表8)。●欠損金繰越期間の延長(二〇〇四年度)
企業が赤字申告となった場合、その赤字分(欠損金)は最大五年間繰り越して、その後の利益と相殺することができた。〇四年にこの繰越期間が延長され七年間となった。しかも、〇一年度分の欠損金にさかのぼって適用されることになった。この期間延長は、大銀行が「財政面で不良債権問題の解決を後押しする施策」として強く要望したものだった。その背景には、小泉内閣が強引に進めた「不良債権処理」によって処分損がふくらみ、〇一〜〇三年度に大銀行が大きな赤字を計上したことがあった。その後、大銀行は利益を回復したが、欠損金の繰越のためにほとんど法人税を納めていない(表9)。●減価償却制度の見直し(二〇〇七・二〇〇八年度)
安倍内閣は、その「成長戦略」の一環として、〇七年度に減価償却制度の見直しを実施した。その内容は、?従来は取得価額の九五%までしか償却できなかったのを一〇〇%できるようにする、?過去に取得した資産についても同様の措置をとる、?フラットパネルディスプレイ製造設備などの法定耐用年数を短縮する―というもの。?と?は設備投資額の大きい大企業に、?はシャープ、パナソニックなどの大企業に減税をもたらすものである。
〇八年度には、資産区分の整理と法定耐用年数の見直しが行われた。自動車製造設備は一〇年から九年に、電気通信用機器製造設備は一〇年から八年になるなど、全体として法定耐用年数が短縮された。
●海外利益の増加と新たな減税の動き
自動車・電機などを中心に企業の海外進出が進み、海外での利益が増えている。企業が海外で利益を得た場合には外国でも課税されるため、その分を日本での税額を減らす「外国税額控除」という仕組みがある。この仕組み自体は以前から存在するものだが、大企業の海外での活動が盛んになる中で、外国税額控除の金額は急増している(図12)。この中には、その企業自身ではなく外国子会社が外国で納めた分まで控除できる「間接外国税額控除」や、実際には納めていない税金を納めたかのように計算して控除する「みなし外国税額控除」まで含まれている。
一方、財界・大企業は、企業の海外での活動に対して、いっそうの減税を要求してきた。それが具体化されたのが、〇九年度「税制改正」に盛り込まれた「外国子会社配当益金不算入制度」である。これは、海外にある子会社が得た利益からの配当については益金に算入せず、日本での課税をゼロにするというものである。多国籍企業に新たな減税をもたらすことになる。
政府は、この減税が「海外に留保されている利益を国内に還元する」効果を生み、賃金増加や設備投資につながるかのような宣伝をしている。しかし、利益が減ったからといって雇用を減らしながら株主への配当だけは確保するという大企業の現状を見れば、海外から利益が還元されたからといって、それが株主の配当を増やすだけで終わってしまう可能性は否定できない。それどころか、「海外で事業をした方が減税になる」とばかりに、ますます資本の海外流出を進めることになりかねない。【六】 年間七兆円、一〇年間で四〇兆円もの減税に
以上に見てきたような大企業や大資産家・富裕層への減税は、最近一〇年間(九八年以降)に行われたものだけでも、大企業に年間五兆円、富裕層に年間二兆円、あわせて年間七兆円以上になっている。九九年から〇八年までの一〇年間の累計では、四〇兆円もの税収が失われた計算になる(図13)。
その一方で、庶民向けの税制では、九七年に消費税率引上げで五兆円もの増税が行われたうえに、九八年の定額減税と九九年の定率減税導入などの減税が行われたのを最後に、二〇〇〇年以降は住宅ローン減税などの対象が限定された減税を除けば、増税の連続だった。二〇〇〇年以降現在までに行われた増税を合計すると、平年度ベースで六兆円もの規模に達している(表10)。麻生首相が「二〇一一年度に実施する」としている消費税増税が実施されれば、この負担はますます増えることになる。
このような、大企業・大資産家優遇税制によってもたらされた税制のゆがみを是正することは、所得分配の構造をただすうえで重要である。
同時に、今日の深刻な経済危機を打開し、国民のくらし、雇用、営業をささえるうえでも、財政問題の解決のためにも、こうした税制のゆがみにメスを入れることが、きわめて重要な課題となっているのである。 ■

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