
教科書には結論だけが載っているニュートン力学や熱力学の法則たち。暗記することで済ませがちなそれらも、法則発見に先立つ先人たちの思索や試行錯誤を知ることで、面白く、深く理解できる。物理教育実践として注目された「群大方式」を担った著者が、物理学の考え方と社会とのかかわりを存分に語る。
目次や構成
[目次]
- はじめに
- I 力と運動
- 1 動くってどういうことだろう?
- 「止まっていない」こと?
- 運動についてのニュートンの説明―時間と空間
- いろいろな物の速さ
- 速さの単位、数値の指数表現
- 速度とは―運動の速さと方向
- 加速度
- なぜ動くのか(1)
- 力のベクトル
- なぜ動くのか(2)
- 2 質量、力って何だろう
- ニュートン
- ケプラーの法則
- 万有引力の法則―月は落ちている!
- ニュートンの3法則
- 質量って何だろう
- スペースシャトル内での物体の質量測定
- 質量の単位
- MKS単位系
- 万有引力による惑星の運動
- 力とは何だったか
- ニュートン力学―時代が要請した新しい統一的世界観
- 地球の重さ(質量)を測る
- 万有引力の比較
- 3 ニュートン力学のその後
- フランスでの新たな発展
- 未知の惑星―海王星の発見
- ニュートン力学の決定論的性格とそれからの脱却
- カオスについて
- ニュートン力学の保存則
- 振り子の運動
- 1 動くってどういうことだろう?
- II 温度と熱
- 1 熱の研究の出発点に立つ
- 温度とは
- 温度計の発明
- 温度計の改良
- 温度計の目盛り
- 気体温度計と絶対零度
- 熱とは何か―温度と熱の区別
- 熱の定義、熱容量と比熱
- 2 産業革命の中の研究者たち
- ブラックによる熱学の基礎の確立
- ジェームス・ワットの蒸気機関の改良
- 熱の本性をめぐる議論―熱素説とラムフォードの実験
- 回り灯籠
- サディ・カルノー
- サディ・カルノーの問題意識
- 理想的な熱機関の効率(1)―可逆熱機関
- 理想的な熱機関の効率(2)―カルノーサイクル
- サディ・カルノーの「覚書」
- 埋もれていたカルノーの『考察』とその発掘
- ジュールの研究の出発点
- ジュール熱の法則
- 熱素説への挑戦
- トムソンの受けた衝撃
- 熱とは何か―これまでのまとめ
- 1 熱の研究の出発点に立つ
- III エネルギーとエントロピー
- 1 エネルギー保存則を考える
- 医師マイヤーの発見
- 熱の仕事当量(気体の比熱からの推定値)
- マイヤーの論文の歴史的評価
- ヘルムホルツによる「エネルギー保存の法則」
- 振り子の運動と力学的エネルギーの散逸
- 米粒を入れたフィルムケースの運動
- エネルギー保存則の数式的表現
- エネルギー保存の法則あれこれ
- 大詰め―クラウジウスの登場
- 2 熱機関と新しい状態量の発見
- カルノーの熱機関の正しい解釈とその効率
- トムソンの提唱した絶対温度
- クラウジウスの視点
- 新しい状態量の発見―エントロピーの概念
- 水の相変化のさいのエントロピー変化
- 非可逆過程とエントロピー生成
- 非可逆過程におけるエントロピー生成
- エントロピー増大則の分子統計的解釈
- 現象論と分子論
- エントロピー増大の法則と環境問題
- 尽きない自然の探求
- 1 エネルギー保存則を考える
- IV 科学と社会
- 1 物理学と国家、戦争
- 熱力学による統一的な自然観
- 19世紀末から20世紀初頭における物理学の発展
- 幕末と明治初期の日本の物理学
- 長岡半太郎の学生時代
- 19世紀後半の社会における科学の位置づけ
- 国家と科学(1)
- 国家と科学(2)
- 2 ヒロシマ、ナガサキへの道行きの中で
- ピエール・キュリーの危惧したこと
- ラザフォードの原子核実験
- 急展開する1930年代以降の核物理学
- ウラニウムの核分裂の発見と連鎖反応の可能性
- ナチス・ドイツ占領下でのジョリオ・キュリーの活動
- ランジュバンの逮捕と抗議のたたかい
- 原子爆弾製造の始まり
- マンハッタン計画(原子爆弾製造計画)
- 日本の都市への原子爆弾投下に対する科学者の反対意見
- ヒロシマ、ナガサキの悲劇
- オッペンハイマーと水爆実験計画
- 3 科学者とヒューマニズム
- アメリカの原爆外交
- 第2次世界大戦後の科学者の平和運動
- ビキニ水爆実験と灰の死
- ラッセル・アインシュタイン宣言
- 国連軍縮特別総会と「核の冬」の予測
- 核兵器廃絶の草の根運動
- 科学を市民の手に
- 1 物理学と国家、戦争
- V 「生きた科学」を学ぶ
- 1 「科学教育論」に学んで
- 干からびた科学の体系
- ランジュバンの言葉(1)―教条的教育批判
- ランジュバンの言葉(2)―科学史の教育的価値
- ランジュバンの言葉(3)―起源にさかのぼる意義
- 学生が自ら考える授業
- 教育基本法と大学の一般教育
- 「群馬大学方式」の学生物理実験
- 学習指導要領にみる文部省の物理教育観
- 石原純の科学教育観
- 2 「理科離れ」と学生たち
- 50年前にはこんなすばらしい学習指導要領があった!
- 1950年代後半に始まる学習指導要領の変質
- 科学史の常識の欠落
- 学生の感想から
- 「理科離れ」を生む土壌
- 学生の知性は健全
- 脈々と続く1947年の理科教育の精神
- 子どもに「生きた科学」を
- 1 「科学教育論」に学んで
著者情報
滝沢俊治

身近で生きた物理学
定価2,090円
(本体1,900円)
2004年6月