
七十過ぎても「生き直したい」と、老人ホームに入る寸前に逃げ出した老婦人(『林の中のナポリ』)。敗戦の混乱で生き別れになった恋人との再会――七十代八十代になった今だからこそ初めて語れる戦争体験、そして「アイ・ラブ・ユー」(『二人の長い影』)。巨匠・山田太一が、劇団民藝の女優・南風洋子さんのために書き下ろした作品。
目次や構成
〔目次〕
- 二人の長い影
- 林の中のナポリ
- 南風さんの遠隔操作で
…書き出す前も書き出してからも書き終えた時も南風さんは、会えばいっぱいの笑顔で、勇ましいといいたくなるような気迫で、舞台について語った。稽古で民藝の稽古場へ行くと「これはノラですね。常識では無茶でも年寄りの心にある夢ですね」などとおっしゃった。
私もそれに近い気持ちだった。南風さんで老人を描いて、リアリズムで終始する物語など書きたくなかった。気品のある老婦人が、笑いの多い舞台の中を、明るく無茶な方向へすすんで行く。観客には彼女の行き先の暗闇が見えるが、老婆は終始明るい。万事承知で明るい。明るいまま無茶な旅を続けていく。そんな舞台を書きたかった。あとになれば、まるで南風さんのその時を描いたように思えるが、私は何も知らなかった。
(南風さんの遠隔操作で より)
著者情報
山田太一
1934年、東京生まれ。58年、早稲田大学を卒業し、松竹に入社。65年、シナリオライターとして独立する。『岸辺のアルバム』『ふぞろいの林檎たち』をはじめ、多くの名作ドラマを手掛ける。一方で、小説や舞台脚本家としても活躍。第2回向田邦子賞(『日本の面影』、84年)、第33回菊池寛賞(85年)、第1回山本周五郎賞(『異人たちとの夏』、88年)、第14回日本アカデミー賞最優秀脚本賞(『少年時代』、91年)など多数受賞する。

二人の長い影/林の中のナポリ
定価1,980円
(本体1,800円)
2008年4月