
父の発症を機に、作家である「私」が父に向き合い、父の履歴、家族の歴史を再発見していく自伝的作品。認知症の症状が綿密に観察され、父を理解したいと努める現在。父の子ども時代のくらし、ナチス時代、私の子ども時代の記憶などの過去。現在と過去が自由に行き来して叙述されるのは、人はどんな時でも本来の個性と尊厳をそなえたまま変わらないということ――。
目次や構成
〔目次〕
- 第1章 「どんなに普遍的なことでも自分のこととして描かねばならない」
- 第2章 パパ、元気?
- 第3章 子どものころはどんなふうだった?
- 第4章 ほら見て、庭の塀だよ、これをパパは自分の手で作ったんだ!
- 第5章 いちばん好きな場所はどこ?
- 第6章 人生でいちばん幸福だったときはいつ?
- 第7章 パパにとって人生でいちばん大事なことは何?
- 第8章 わしはもう老兵だ。それにひきかえ、おまえは新兵だよ。
- 第9章 この先どうなるか、わしにはわからん。
- 第10章 アレクサンドラの祖父は、虐待されている、と言い張る。
- 第11章 ここはパパの作業場だよ。何か思い出すことがある?
- 第12章 齢については?
- 訳者あとがき
- 私は本書にたっぷり時間を割くつもりで、執筆に六年を費やした。また同時に父の生存中に書き上げられることを願っていた。死後に父のことを物語りたくなくなかったし、生きている人間について書きたかった。そして、誰もがそうであるように、父もまた開かれた運命をもつに値することがわかった。ーーアルノ・ガイガー(本文より)
- 本書を読むと、人間は認知症になっても、本来の個性と尊厳をそなえた人間のまま変わらないことがわかる。(「訳者あとがき」より)
著者情報
アルノ・ガイガー
1968年、オーストリア生まれ。ウィーン在住。インスブルック大学とウィーン大学でドイツ文学、古代史、比較文学を専攻、93年から作家活動に入る。94年にオーストリア文部省の学術文化奨励賞を、98年にはAbraham Woursell財団からヨーロッパの若手作家を助成する奨励賞を得る。2005年、Es geht uns gut(『ぼくたちは元気』)で第1回ドイツ書籍賞(イギリスのブッカー賞を模して創設したと言われる)を受賞。

老王の家 アルツハイマー病の父と私
定価1,980円
(本体1,800円)
2013年1月
渡辺一男
1946年、神奈川県小田原市生まれ。東京都立大学大学院博士課程中退(ドイツ文学専攻)。99年以降オーストリアに在住。主な訳書に、シャーケ『ヒトラーをめぐる女たち』(2002年、TBSブリタニカ)、ヴィントガッセン『独裁者の妻たち』(03年、阪急コミュニケーションズ)、クルツ『資本主義黒書(上・下)』(07年、新曜社)、ブリンクボイマー『出口のない夢――アフリカ難民のオデュッセイア』(10年、新曜社)ほか。

老王の家 アルツハイマー病の父と私
定価1,980円
(本体1,800円)
2013年1月