
司馬遼太郎、吉村昭など、作品の多くを幕末・維新に求めた作家は少なくない。鞍馬天狗、勝海舟、篤姫ら歴史を彩る主人公から無名の民まで、日本社会を近代へと転換させたこの時代をどう描いたのか。そこに反映されたものと、反映されなかったものは何か――代表的な11の作品を読み返しながら探る読み物。
目次や構成
〔目次〕
- 街道を吹きぬけた歴史の風――島崎藤村「夜明け前」
- 歴史のなかの個人、個人のなかの歴史――安岡章太郎「流離譚」
- テロは歴史を変えたか――吉村 昭「桜田門外ノ変」
- 稀代の策士か早すぎた志士か――藤沢周平「回天の門」
- 「徳川」を背負わされた姫たち――宮尾登美子「天璋院篤姫」、有吉佐和子「和宮様御留」
- 一個独立の反権力者として――大佛次郎「鞍馬天狗」
- 武力が国を誤らせる――子母澤 寛「勝海舟」
- 女たちのいくさは苛酷にすぎて――津村節子「流星雨」
- 封建倫理のがれ近代個人へ――本庄陸男「石狩川」
- 官僚専制国家へ――司馬遼太郎「翔ぶが如く」
本文より
- 幕末・維新を駆け抜けたヒーローたちのなかで、鞍馬天狗だけが死んでいない。架空の人物だから当然といえば当然だが、彼が死んでいないのは、なにか大事なことをやり残しているからのようにも思える。彼が命がけでたたかった「日本の夜明け」は、けっしてあのようではなかっただろうからである。
著者情報
新船海三郎
1947年生まれ。日本民主主義文学会会員、日本文芸家協会会員。著書に『歴史の道程と文学』『わが文学の風景 作家は語る』『史観と文学の間』『人生に志あり藤沢周平』など。

鞍馬天狗はどこへ行く 小説に読む幕末・維新
定価2,090円
(本体1,900円)
2009年8月