
リスクを自己責任で引き受けさせる教育とその矛盾を解析
ロールアウト新自由主義下の主体形成 学習指導要領の「ことば」から
久保田貢=著
自立、ボランティア、食育、法、きまり、安全、持続可能、主権者教育……この三十数年、学習指導要領に新たに登場し、また新しい文脈に置かれた「ことば」の数々。そこにどんな政策意図があり、教育がどう変容してきたかを新自由主義の統治という視点から分析する。日本社会のありようとその変革を考える上で示唆的な労作!
目次や構成
<目次>
- 第一章 なぜ学習指導要領のことばに着目するか
- 1 本書の課題と新自由主義
- 2 「新自由主義」概念についての考察
- 3 ロールバック(撤退型)新自由主義とロールアウト(伸展型)新自由主義
- 4 新自由主義と教育
- 5 学習指導要領の「ことば」に着目する意味
- 6 先行研究との関連で──権力構造の理解、時期区分、学習指導要領の位置
- 第二章 一九八九学習指導要領「生活」に始まる「自立」
- 1 はじめに──一九八九学習指導要領の論点
- 2 一九八九学習指導要領の意味と新自由主義的「自立」
- 3 一九八九学習指導要領「生活」の自立論
- 3-1 「生活」の自立論とその背景
- 3-2 自立をめぐる「新たな統治」と教育
- 4 「自己認識」強化と仕事・生産学習の減少がもたらすこと
- 4-1 自己認識論の陥穽
- 4-2 「仕事」・「生産」記述の減少
- 4-3 「新しい学力観」の登場
- 5 「自己認識」強化と仕事・生産学習の減少がもたらすこと
- 第三章 教育目標としての「ボランティア」
- 1 はじめに──ボランティアとは
- 2 一九八〇年代〜九〇年代の構想と当時の批判
- 3 中教審と教課審のボランティア論
- 4 学習指導要領への「ボランティア」の記載
- 5 「総合的な学習の時間」の設置と「ボランティア」
- 6 参加型福祉社会におけるボランティア
- 7 おわりに──法に規定されたボランティア
- 第四章 「食育」普及の分析──健康の自己責任と二〇〇八学習指導要領
- 1 はじめに──「食育」の普及
- 2 先行研究と本章の課題
- 3 「健康日本21」と食育に関わる二つの方向性
- 3-1 メタボリックシンドロームと食育
- 3-2 「健康増進法」の制定と食育への指導体制
- 3-3 保守主義的な装いを加味する食育
- 4 食育基本法の制定と学校現場での実践の急展開
- 4-1 食育基本法
- 4-2 「食育推進基本計画」という目標数値と学校現場での展開
- 5 学習指導要領の改訂
- 5-1 改訂の経緯
- 5-2 改訂された学習指導要領
- 5-3 学校教育現場で展開する食育実践
- 6 食育の展開から見えてくるもの
- 7 二〇〇八学習指導要領以後の食育
- 8 おわりに──食育をめぐる分岐
- 第五章 「法」「きまり」が増える二〇〇八学習指導要領──司法制度改革の影響
- 1 はじめに──「国家改造」のなかの司法制度改革
- 2 司法制度改革の諸相──新自由主義・構想改革の「最後のかなめ」
- 3 司法制度改革と憲法・人権の後退
- 4 法務省法教育研究会での議論
- 5 中教審での議論──道徳、「法」、「きまり」、「ルール」の混交
- 6 二〇〇八学習指導要領から増加する「法」、「きまり」、「ルール」
- 7 二〇〇八学習指導要領の問題点
- 8 ロールアウト新自由主義における「排除」
- 9 広がる「ゼロ・トレランス」と「スタンダード」
- 10 おわりに──対抗的な実践への模索
- 第六章 「安全」指導重視についての考察──安全の自己責任化の過程
- 1 はじめに──学習指導要領に追加された「安全」記述
- 2 「安全」重視の理由と先行研究
- 3 「生活安全条例」、「犯罪に強い社会の実現のための行動計画」と学習指導要領
- 3-1 生活安全条例と内閣策定の行動計画
- 3-2 中央教育審議会の議論から学習指導要領へ
- 4 新自由主義・構造改革と「安全」政策──その経緯と問題点
- 4-1 「安全」政策の経緯
- 4-2 新自由主義・構造改革下で進む「安全」政策
- 4-3 「安全」政策と立憲主義
- 5 小括──司法制度改革との関連
- 第七章 学習指導要領で変遷する「公害」「環境」「持続可能」
- 1 はじめに──学習指導要領に登場した「持続可能」
- 2 Sustainableと公害
- 3 「公害」の広がりと学習指導要領の公害記述
- 4 「公害」記述の後退と「環境」の増加
- 5 「地球環境」問題への傾斜と「自然」の強調
- 6 二〇〇年代の「Sustainable」をめぐる日本の動向
- 7 二〇〇八学習指導要領に登場した「持続可能」
- 8 おわりに──「Sustainable」とは
- 第八章 主権者教育の変容
- 1 はじめに──「主権者教育」への戸惑いと忘却
- 2 日本国憲法との「断絶」
- 2-1 二〇〇六教育基本法の違憲性
- 2-2 日本国憲法の出発点としての侵略戦争認識
- 3 主権者教育の歴史
- 3-1 永井憲一の主権者教育権論と国民の教育権論
- 3-2 主権者教育の実践研究史
- 3-3 主権者教育論の成果と課題
- 4 イギリスのシティズンシップ教育とその変容
- 5 国家の求める主権者教育
- 6 おわりに──混乱する主権者教育
- 第九章 教育の右傾化・保守化と学習指導要領
- 1 はじめに──新自由主義時代の右傾化・保守化
- 2 右派からの教科書攻撃
- 3 一九九〇年代からの歴史修正主義と学習指導要領
- 4 性教育の進展
- 5 学習指導要領改訂と九〇年代末の性教育の動向
- 5-1 一九八九学習指導要領について
- 5-2 一九九八学習指導要領について
- 5-3 性教育をめぐる九〇年代末の動向
- 6 性教育への攻撃の本格化
- 7 教育基本法「改正」へ
- 8 右傾化、保守化とロールアウト新自由主義
- 9 学習指導要領「生活」記述の変容にみるコミュニティ
- 10 学習指導要領と排除
- あとがき
- 参考文献
著者情報
久保田貢
愛知県立大学教授。1965年生まれ、都立大学卒業。愛知教育大学大学院修士課程修了。著書に『ちゃんと知りたい! 日本の戦争ハンドブック』(共著、歴教協編、2006年、青木書店)、 『ジュニアのための貧困問題入門』(編著、2010年、平和文化)など。

ロールアウト新自由主義下の主体形成 学習指導要領の「ことば」から
定価2,310円
(本体2,100円)
2024年8月