
九条を守る一致点で国民的共同をさらに広げるためには、多様な考え方を許容することが求められている。憲法と文化の関係に着目し、権力によって歪められた伝統・愛国心などの内容を正しく継承し、敵を味方にする言葉を共有すべきという著者の、九条の会や文学と伝統・思想に関する講演をまとめた注目の憲法文化論。
目次や構成
〔目次〕
- I
- 憲法九条の心と文化の力
- II
- 『伝統の想像力』をめぐって
- 実作者のための文学論
- 戦後の百合子―回想をまじえて
- 短歌の伝統について
- 文学は何を語ればよいのか
- あとがき
- 初出一覧
そういうことを考えていきますと、私たちは人間の美しい力を自分の手に持たなければならないとつくづく思います。どういうことかというと、一つは、敵を味方にする力。これは人間だけが持っている力です。どうしたらできるかというと、それは共通する言葉を見つけること。伝統でもいいし、美意識でもいいし、もちろん日常生活の感覚でもいい。そうして敵を味方にする言葉を見つけていくことです。
たとえば、「伝統なんて聞くだけで腹が立つ」と言う人がいますが、いま「戦後レジーム」を直そうと言う人々は、日本の伝統なんて全然理解していません。日本の伝統は非常に優れているものです。『万葉集』のころから『源氏物語』にしても、世阿弥にしても、近松、西鶴など文学上のみならず、その他の建築、美学の面でも非常に優れたものがあります。
ところが、いままでの権力を握っている人たちは、その中から自分たちの権力を掌握するのに都合のいい部分だけを取り出してきて、「これが伝統だ」と偽ってきた。その偽りに引っかかってはいけません。伝統のなかの民衆的なもの、平和的なものは、われわれは胸をはってどんどんと受け取っていく必要があるでしょう。(本文より)
著者情報
辻井喬
1927年東京生まれ。東京大学経済学部卒業。現在、セゾン文化財団理事長。

憲法に生かす思想の言葉
定価1,650円
(本体1,500円)
2008年9月