
時代と切り結んで読むシェイクスピア
シェイクスピアの人間学
小田島雄志=著
21世紀になっても続く国家・民族の争い。家庭や学校でも起きる親子・兄弟・友人の間の殺しやいじめ。人間が好きで、その感情のすべてを描いたシェイクスピアが生きていればこの状況を見て何を言うか。「世界中がシェイクスピア好きになれば戦争は起こらない」と語る小田島シェイクスピアの新機軸。書き下ろし。
目次や構成
〔目次〕
- はじめに
- Ⅰ章 21世紀に生きるシェイクスピア
- 一歩引いて見る目の大切さ
- 「もしも」には偉大な力がある
- 想像力を失ったオセローの悲劇
- 悪役シャイロックの立場になれば
- 「武器は言葉」とコミュニケーション
- 「生か死か」では割り切れないハムレット
- リアリズムとユーモアの一体化
- Ⅱ章 シェイクスピアの人間観・歴史観の形成
- ルネサンス期の人 ―― 神から人へ
- 「見せかけと真実」の原体験 ―― 幼年期と少年期
- 大学に行かなかったメリット ―― 独自の演劇世界
- 歴史物語をもとに転換
- シェイクスピアの歴史観 ―― グランドメカニズムの一つ
- Ⅲ章 ゲーテ、トルストイ、マルクスが読んだシェイクスピア
- ゲーテ ―― 舞台は彼の偉大な精神にとっては狭すぎた
- トルストイ ―― あまりに不自然すぎる
- マルクス ―― シラーよりシェイクスピア
- Ⅳ章 日本でのシェイクスピア ―― 私的受容史
- 義理・人情とシェイクスピア
- 自分の感性で自由に読む ―― 東大闘争を経て
- Ⅴ章 台詞の中の人間学
- どんなに荒れ狂う嵐の日にも時間はたつのだ。(マクベス)
- 顔を見て人の心のありようを知るすべはない。(マクベス)
- 人は、ほほえみ、ほほえみ、しかも悪党たりうる。(ハムレット)
- バッサーニオ 好きになれなきゃ殺す、人間てそんなものか?
シャイロック 憎けりゃ殺したくなる、人間ってそんなもんだろう?(ヴェニスの商人) - 人間、衣装を剥ぎ取れば、おまえのように、あわれな裸の二本足の動物にすぎぬ。(リア王)
- 王様の宮殿を照らすあのお日様は、私たちの貧しい小屋にもお顔を隠すことなく、同じように光を与えて下さいますって。(冬物語)
- 目はおのれを見ることができぬ、なにかほかのものに映してはじめて見えるのだ。(ジュリアス・シーザー)
- 敵のおかげでいいめを見、友だちのおかげで悪いめを見ているところだ。(十二夜)
- 嫉妬深い人は……理由があるから嫉妬するのではなく、嫉妬深いから嫉妬するんですもの。(オセロー)
- 美徳そのものが悪徳に転ずるも用法次第、行動次第で悪徳もまた名誉をうる。(ロミオとジュリエット)
- そもそも人間の真の姿が立ちあらわれるのは運命に敢然と立ちむかうときをおいてほかにはない。(トロイラスとクレシダ)
- 権威の座にあるかたは、ほかのものと同じようにあやまちを犯しても、罪のうわべをつくろう力をおもちだからです。(尺には尺を)
- 「時」こそ人間の支配者だ、人間を生かしもすれば殺しもする。(ペリクリーズ)
- 私たちは、人間を救う力は天のみにあると思い込んでいる、でも、その力が私たち自身のうちにあることもよくある。(終わりよければすべてよし)
- クレオパトラ それが愛なら、どれくらいの大きさか知りたいわ。
アントニー どのくらいと言えるような愛は卑しい愛にすぎぬ。(アントニーとクレオパトラ)
- 参考文献
- シェイクスピア略年譜・作品紹介
「世界中の人がみんな“シェイクスピア好き”になったら、この世界から戦争が消えるでしょう」
という言葉が、私の唇から、いや、もしかしたら腹の底から飛び出した瞬間、そうだ、いままではっきり言葉にしたことはなかったけれど、ずっとそう思い続けていたのだ、と気づきました。それまで無意識、ないし半意識の状態であった思いが、いきなり白日のもとに引っぱり出されたのです。(「はじめに」より)
著者情報
小田島雄志
1930年生まれ。東京大学名誉教授、東京芸術劇場名誉館長。著書に『ことばの魔術師井上ひさし』(共著2013年、岩波書店)、『ぼくは人生の観客です』(2012年、日本経済新聞社)、『シェイクスピアの恋愛学』(2010年、新日本出版社)、『シェイクスピアの戦争・平和学』(2008年、同)、『シェイクスピアの人間学』(2007年、同)など。

シェイクスピアの人間学
定価1,650円
(本体1,500円)
2007年4月