
歴史を題材にした作品で多くのファンを持つ作家・司馬遼太郎。とくにNHKでドラマ化されている「坂の上の雲」は、そこでの日清・日露戦争の描き方が「真実」だと広められている向きもある。さまざまな司馬作品を切り口にして、幕末から現代までの近現代史の実像、司馬が見据えた歴史の発展方向を考える。
目次や構成
- プロローグ 二一世紀に生きる君たちへ――司馬さんのメッセージの意味
- 1 幕末維新の「苦味」
- (1)成熟していた江戸社会
- (2)倒幕への動き
- (3)明治維新という器
- (4)「人民は家元、政府は名代人」
- 2 「坂の上の雲」の語る「明治日本」と近代史
- (1)「明治日本」を考える
- (2)「暗い時代」の認識
- (3)地政学のまやかし
- (4)近代の日朝関係
- 3 「坂の上の雲」と日清戦争
- (1)能動的な日本政府
- (2)過酷な戦争を続けた
- (3)日清戦後の日本と朝鮮
- (4)日清戦後の軍備拡張と日本社会
- 4 「坂の上の雲と日露戦争」
- (1)日露戦争と「自衛戦争」論
- (2)近代日本の国際認識
- (3)講和条約から考える
- (4)日露戦争の大きな意味
- (5)帝国日本と韓国併合
- 5 加害者としての「大正日本」と「昭和日本」
- (1)アジアへの「加害者」論
- (2)シベリア出兵の批判
- (3)帝国と天皇
- (4)国際協調路線のゆれ
- (5)統帥権問題
- (6)帝国議会が果たさなかった役割
- (7)学問の自由と言論の自由
- (8)腐敗した軍部とアジア太平洋戦争
- 6 戦後日本の希望が歴史を見る眼を育てた
- (1)日露戦争から四〇年後の敗戦
- (2)「戦後」のつくり方
- (3)歴史の深部の力への信頼
- エピローグ 二一世紀の日本とアジア
- 引用文献
- 参考文献
プロローグより
- この本は、司馬文学の文学性を検討するものではなく、いわゆる文芸評論ではありません。司馬遼太郎という一人の作家が、文学作品やエッセイ、講演などの形で発表した「歴史」についての考え方を参照しながら、日本近代史を見直してみよう、という意図で書いていきます。したがって、文学的な表現のあれこれを問題にするのではなく、多様な形で表現された「歴史的認識」を取り上げ、考えていくというスタイルを取ります。その場合も、司馬さんの歴史認識が現代日本人の認識を表現しているものという考えで検討し、いったいその「歴史認識」は、現代歴史学の研究から言ってどう考えられるのか、を示していきたいと考えています。
著者情報
原田敬一
1948年生まれ。大阪大学大学院文学研究科博士課程後期課程修了、佛教大学歴史学部教授。著書に『日本近代都市研究』『国民軍の神話――兵士になるということ』『帝国議会 誕生』『日清・日露戦争』ほか。

「坂の上の雲」と日本近現代史
定価1,650円
(本体1,500円)
2011年10月