
あと5分、あと10分…。――画布に向かう「ひたむきさ」に出会う
傷ついた画布の物語 戦没画学生20の肖像
窪島誠一郎=著
無言のまま、何か饒舌に「無言のコーラス」を響かせる無言館の画布たち。そこに飾られた絵にはどのような濃密な時間が刻み込まれていたのか。生を断ち切られるまで命を輝かせていた戦没画学生たちの青春を、彼らへの「恋文」のように描き出した心ゆさぶる20の物語。9月にオープンする無言館第二展示館(「傷ついた画布のドーム」)を記念して刊行!
目次や構成
〔目次〕
愛する戦没画学生たちへ
- 伊沢洋「家族」――この絵は空想画なんです
- 太田章「和子の像」――何枚も何枚もデッサンして
- 中村萬平「霜子」――「絵の中に私がいます」
- 蜂谷清「祖母なつの像」――一枚のイコン画のごとく
- 片岡進「自刻像」――銃創一つない「ライフマスク」
- 丸尾至「釣り人のいる風景」――知識はきたない本だとて変わりませぬ
- 小柏太郎「天女の像」――痛まし、戦場のグルメ
- 興梠武「編み物する婦人」――香月泰男に絵具をわけた男
- 清水正道「婦人像」――応召を誰にも知らせず
- 大西博「無題」――リヤカーで絵を運んだ日
- 佐藤孝「風景」――遺書とよべる何ほどのものはない
- 西岡健児郎「妻せつ」――夫の姓を一度も名乗らぬまま
- 小野春男「茄子」――将校にはならぬ、絵を描けなくなるから
- 桑原喜八郎「少女」――昨日、戦争が終わった夢をみたよ
- 尾田龍馬「宇和島風景」――芍薬のハンカチ
- 岩田良二「故郷風景」――ぼくは必ず治ります
- 庄司正「曇り日」――将来は、舞台美術も戯曲も
- 原穣「坂出風景」」――重々しき黙示録
- 大江正美「白い家」――この絵を治療費のかわりに
- 川崎雅「馬」――父はまだ生きている
著者情報
窪島誠一郎
1941年東京生まれ。印刷工、酒場経営などを経て、64年東京世田谷に小劇場「キッド・アイラック・アート・ホール」を設立、79年長野県上田市に夭折画家のデッサンを展示する私設美術館「信濃デッサン館」を、97年に戦没画学生慰霊美術館「無言館」を設立した。執筆活動では、NHKでテレビドラマ化された、実父水上勉との再会を綴った『父への手紙』(筑摩書房)のほか、『「無言館」の坂道』『雁と雁の子』(平凡社)、『漂白・日系画家野田英夫の生涯』(新潮社)、『「無言館」ものがたり』(講談社)、『「無言館」への旅』(白水社)、『石榴と銃』(集英社)など著書多数。第46回産経児童出版文化賞、第14回地方出版文化功労賞、第7回信毎賞を受賞。「無言館」の活動で第53回菊池寛賞を受賞。